山で使うアマチュア無線

 携帯電話の急速な普及により、山から下界への連絡は容易になりましたが、パーティー間連絡や、非常時の連絡などにはアマチュア無線はまだまだ有効です。
 免許を持っていないけれどそのうち取りたいと思っている人、免許も無線機もあるけれど「交信できない」人を対象に、山で使うアマチュア無線について書いてみました(労山千葉県連・岳樺クラブのHPに国本秀夫さんが書いたものを参考にさせていただきました)。通信はとにかく慣れが肝要。スムースな運用を身につけるために勉強するとともに、日頃から無線機を取り出して、どのような運用が行われているのか研究するようにしましょう。不充分な記載も多いと思いますので、ご意見などお寄せいただければ幸いです。

【アマチュア無線の免許】

 よく「免許」といいますが、アマチュア無線の免許には2つの種類があります。@「アマチュア無線技師」の資格をとり、「無線従事者」となる免許。通称「従免」。1級から4級がありますが、山で使うには4級でOKです(他は合格するのがかなり難しい)。国家試験を受けるか、講習を受講して修了試験に合格すれば免許が取れます(国試は年1回。講習は2日間)。費用は国試5000円、講習23000円程度。日程や会場などの詳細はハムショップに問い合わせてください。自分は土佐第一電子(小津町)に行ってます。従免は生涯有効で、書き替えはありませんから一度取ればもう費用はかかりません。

A無線機を購入してから「無線局の開局申請」を総務大臣に提出して 「コールサイン」をもらう免許。通称「局免」。無線機を買った時、届出用の書類も一緒に買いましょう。ちょっと頑張れば誰でも申請できます。間違っても店に代行など頼まないこと。簡単な書類を書くだけなのに高い金を取られます。開局するには印紙代や手数料など1万円程度必要です。局免は5年が期限で、更新を忘れると失効してしまいます(電波管理局からは期限を連絡してこない)。再び免許を得るには新たに開局手続きが必要になり、更新より高い費用と手間が必要になります。よく「免許を流した」という人がいますが、「局免」のこと。 アマチュア無線は、「無線従事者」が、「コールサイン」を受けて通信を行わなければなりません。そうでない通信は違法になります。

【山で使う周波数】

 山でアマチュア無線を使う場合、通常は430MHz帯か144MHz帯のFM電話という形式の電波を使用します。それぞれの帯域には「呼出周波数」が設定されていて、他局への呼びかけはこの周波数を使用します。呼出周波数は 

430MHz帯は 433・00MHz
144MHz帯は 145・00MHz
です。

 【周波数の設定】

 山に無線機を持って行く場合、特に取り決めが無い場合は常時この呼び出し周波数に周波数を合わせておきます。通信を行う場合には、この「呼出周波数」で相手を呼び出し、交信できたら周波数を変えて交信します。これを専門用語で「QSY」(キューエスワイ)といいます。いわば出会いの周波数が「呼出周波数」です。
 たいがいの無線機には「CALL」と書かれたボタンがついています。このボタンを押すと自動的に「呼出周波数」にジャンプするようになっています。 呼出周波数でずっとしゃべっていると、他の局に迷惑になりますので、相手と交信ができたら、速やかに空いてる周波数に移動します。

 移動するためには、あらかじめ空いている周波数を探しておかなければなりません。事前に「この周波数は使われてますか?こちらは○○○(コールサイン)」とチェックし、数分間ワッチして空いていることを確認しておきます。 

 例外的に、最初からこの周波数で通信しようとあらかじめ打ち合わせておく場合もありますが、他局が使っていることも多くあり(山中では空いていても稜線に出ると都市部の電波が一気に飛び込んでくる)、なるべく呼出周波数で呼び出してQSYするようにしてください。混信や予期せぬトラブルでうまく通信できない時には、必ず呼出周波数に戻ることを確認しておきましょう。


 この際に気を付けなければならないのはバンドプランです。アマチュア無線に開放されている周波数帯内であっても無線機の形式によって利用できる周波数が制限されています。前述したように山で使うトランシーバは「FM電話」です。「FM電話」は144MHz帯であれば

144・70MHzから145・65MHz(呼出周波数である145・00MHzと非常通信周波数の145・50MHzを除く)しか使用してはいけません。

430MHz帯では431・40MHzから431・90MHz、432・10MHzから434・00MHzまで(除く433・00MHz、433・50MHz)。

 このバンドプランを守らないのは違反です。空いているからといってどこにQSYしてもよいわけではありませんので気を付けてください。またバンドの境界線上にあたる周波数は(たとえば432・10MHz)は実際には電波に幅があるためバンド外にはみ出しますので使用してはいけません。高知労山の会内連絡用周波数は432・12MHzに取り決めていますので無線機にメモリーしておいてください。この周波数が使用されている場合には呼び出し周波数で呼ぶようにしてください。

【電波の特性】

 電波は周波数が高くなるにつれて直進性が強くなります。言い換えれば、見通しが利かない所には電波は届きにくくなるということです。低い周波数の場合は電波の「到達範囲」は広がり、山肌からの反射や鋭い稜線などによる回折効果により、見通し範囲以外にも電波が届く可能性が高くなります。
 430MHzの場合はほとんど目で見える範囲が「到達範囲」です。144MHzの場合は、結構いろんな所に届きます。沢筋など電波が届きにいくことが予想される場合などは144MHzを使用するほうがよいでしょう。 ただし144MHzのほうが電波が込み合っていますので(高知はほとんどガラガラです)、ケースバイケースで判断してください。
         
【どんな無線機がいいのか】

 144MHzと430MHzの2つの周波数帯が使用できるデュアルバンドの小型ハンディ機が良いでしょう。パワーはあったほうが良いに決まっていますが、バッテリー性能は重量と比例し、限界があります。電波の到達距離はパワーより、高いところからの発信、見通しの良いところからの発信など、ロケーションにほとんど左右されますので1Wで充分。0・3Wでも実用になります。

 無線機の重量は重要です。結局重いと持っていくのがしんどくなって利用しなくなります。重くても250グラム以下に抑えたいところです。 他のポイントとしては、テンキーボードは特にいらない(価格が高いし、あまり使わない)、単3乾電池をメイン電源として使用できること(電源の互換性)、カサが張らないことなど。
 最もお薦めの機種は、今は生産中止になったスタンダードC510(単3が3本で1W。200グラム)。山岳用としては最高の機種だと思います。
 ハイパワーを強調している機種がありますが、実際には外部電源使用だったり、特大の充電池を付けた時にだけ出るというのが結構多いので、乾電池でどれくらいの出力があり運用時間があるのかをチェックしましょう。

 最近は、専用リチウム充電池を使用したハイパワーモデルがでています(出力は最高5Wで250グラム程度)。この重量で内蔵電池だけで5Wも出るのは驚異的です。しかし5W運用は電池をあっというまに消耗しますし、トランシーバーが熱を持つため、結局短時間しか5W運用はできません。やはり通常は1Wで運用することになります。
 5Wは「ここぞ」という時に使用する最後の切り札と考えるべきでしょう。これらの機種は単3も使えますが、あくまでも非常用で、出力はかなり小さく運用時間も短くなります。専用充電池は放電してしまえば山中で回復することは不可能ですから気を付けましょう。乾電池のスペアは必ず携行しましょう。

 レスキュー時の使用を視野に入れると、単3によるバッテリーの互換性は重要なファクターになります。またリチウム専用充電池の将来の供給には不安が残ります。モデルチェンジの中で、専用電池が生産中止となり本体はまだ大丈夫なのに専用電池が入手不可能となって、乾電池による非常用運用しかできなくなる可能性も否定できません(他の機種ではたくさん例がある)。電源の汎用性は山中のバッテリ切れにも、将来性にとっても非常に重要ですので購入の際には後悔しないようよく検討してください。ただ最近は単3がメインで使える良い機種がほとんどなくなってきているのが現状で、残念なところです。

 自分は先ほど紹介したスタンダードC510(単3が3本で1W。200グラム)、スタンダードC501(単3が2本で0・28W。160グラム)を使っています。

【電波をうまく飛ばすには】

 430MHz帯は、電波の飛び方は光とほとんど同じですので、電波の到達距離は見通しの範囲(目で見える所)になります。 144MHz帯は、多少の陰なら交信ができる場合があります。見通し範囲以外でも反射波による交信ができる場合もあります。

 無線の交信はパワーよりも、良いロケーションの選定が効果的ということを肝に銘じましょう。出来るだけ見通し範囲になるように高い所に行く(交信できなかったら動ける範囲でうろついてみる)のが効果的です。

【受信する】

 交信時間を設定しているのに、受信できないことが多くあります。
 上手く行かない原因としては、@交信時間を忘れていた。登攀中でザックから取り出す余裕が無かった、A周波数が違ったところに設定されていた(知らぬ間に周波数がズレていた場合も多い)、B電池切れ又は温度低下による電池機能の低下、Cボリュームのツマミが動いて受信できているのに音が聞こえなかった(C510では多い)等の例が多くあります。

 @はやむを得ない場合も多いのですがAとB、Cは注意すれば防げます。周波数ロックをかける(Fキ−を押して「LOCK」キ−とうパターンが多い)、電池の予備を持って行く、送信内容は手短に(長時間電波出していると電池の消耗が激しい)、電池の特性から低温時能力が落ちるので、冬季は暖めながら使用するなどの対処が必要です。

 受信感度が悪い場合、無線機の「スケルチ」を解除します。「スケルチ」は受信時の雑音低減の為に弱い電波をカットする装置で、無線機が「ガーガー」と受信状態になりっぱなしになるのを防ぐ装置。微弱電波もカットされるので、目的とする電波が弱い時には、「スケルチ」をカットしたりレベルを下げる(周波数ダイヤルの2重ボリュームで調節する機種が多い。「MONI」キーを押して解除する機種もある)と雑音の間からかすかに希望する電波を受信できることもあります。近くをうろついて電波が入りやすい場所探す。たとえ見通し範囲でなくても、電波の反射、回折効果により電波が入る場所もあります。

【交信】

 さていよいよ交信です。あらかじめ定めた周波数又は呼び出し周波数に無線機を合わせます。
 まず、相手の「コールサイン」を3回繰り返し(不特定多数の場合はCQ)「こちらは」のあと自分のコールサインを1回コールします。そして「感度ありますか どうぞ」とか「応答願います どうぞ」等と無線機に向かってしゃべります。
 無線機の送信ボタンを押す前からしゃべり始める人が多いのですが、それでは、しゃべり始めが電波に乗っかりません。プレスボタンを押して一呼吸置いてゆっくりしゃべり始めます。

【交信の実際】
 
中田アタック隊を桑原BCが呼び出し周波数で呼ぶ交信

桑原:
JI5RCI、JI5RCI、JI5RCI。 こちらはJI5KCC桑原です。 432・12 212で受信します。※桑原さんは事前に空いている周波数を確認しておく。

中田:(呼び出し周波数からQSYして)
JI5KCC。こちらはJI5RCI中田です。59(ファイブ・ナイン 強い電波ではっきり聞こえるという意味)でよく聞こえます。我々は先ほど頂上に着きました。どうぞ。

桑原さん:
ごくろう様でした。用心してテントに戻ってきて下さい。ビール冷えてます どうぞ。

中田:
了解しました。今から下山します。 次回交信は13時00分に432・12MHzで行います。どうぞ。

桑原さん:
定時交信の件了解。BCでは常時ワッチしています。JI5KCC桑原でした。

【非常通信】

 事故等による非常通信を行わなければならなくなった場合には、動作に入る前に一呼吸置いて自分を落ち着かせる努力をしながら行動しましょう。無線通信には、優先順位があり、 非常事態の通信は「非常通信」と呼ばれ最優先される決まりになっています。「非常通信」の場合、文頭に「非常」を3回繰り返すことにより、他に対して優先順位を主張します。非常通信を行う場合に、他者に周波数を使用されている場合、「非常通信なので沈黙してください」とアピールしなければなりません。
 強力な電波で通信をしている無線局に、こちらの弱い電波が届かず、非常通信が行われている事に気がつかないで一般通信を続けられてしまうことがあります。このような場合、通常通信の停止要請を強い電波の無線局から出してもらうように頼む方法もあります。通信内容は記録しておきましょう。会で決めておいた周波数で交信できる状態であれば、その周波数で事故パーティーと仲間が連絡をとります。
 自分たちでは救出できない場合には非常事態を公開して援助を求めるために非常通信を行います。

【非常時の通信例

 事故パーティーのリーダー中田JI5RCI 事故者は太郎。受信者は桑原JI5KCC(同じ会ではない通りがかりの親切な登山者という設定)。145・00か433・00の呼出・非常通信周波数に合わせます。非常事態なので、電波が空くのをずっと待っているとラチがあかないのでちょっとした隙間を見つけて交信開始します。事故現場が沢など電波が届きにくい場所の場合には、同じ周波数の無線機を持ったメンバーを見通しの良い高い場所に行かせ中継します。

中田(事故パーティー):
非常 非常 非常 CQ CQ CQこちらはJI5RCI ジュリエット・インディア・ファイブ・ロメオ・チャーリー・インディア(フォネティックコードという符号です。機会があれば勉強してください) ポータブルファイブ石鎚山です(電波の発信場所)。どなたか応答願います。(誰か受信してくれるまでくり返す)。

桑原:
非常 非常 非常 JI5RCI。こちらはJI5KCC。 58(結構強い電波ではっきる聞こえる)で聞こえています。どうぞ。

中田(事故パーティー):
非常 非常 非常 JI5KCC。こちらはJI5RCI 名古屋のな 為替のか 煙草のた 中田と申します(和文の符号です)。 応答ありがとうございます。59で聞こえています。周波数を変更します。432・12MHzです。よろしくお願いします。どうぞ。

桑原:※432・12MHzに移動
非常 非常 非常 JI5RCI。こちらはJI5KCC クラブのく ワラビのわ 葉書のはに濁点 ラジオのら 桑原です。

中田(事故パーティー):
非常 非常 非常 本日9月15日 午前9時30分、石鎚山北壁ダイレクトルートで遭難事故発生。くり返します。本日9月15日 午前9時30分、石鎚山北壁ダイレクトルートで遭難事故発生。119番への連絡をお願いします。どうぞ。

桑原:
本日9月15日 午前9時30分に 石鎚山北壁ダイレクトルートで遭難事故発生。119番への連絡了解しました。状況を引き続きお知らせ下さい。 どうぞ。

中田(事故パーティー):
本日9月15日 午前9時30分、 石鎚山北壁ダイレクトルートで遭難事故発生。負傷者は太郎30歳男1名。 登攀中に墜落し足首骨折と腕からの出血。意識はあるが歩行困難。ダイレクトルート基部にて応急手当。所属山岳会は高知勤労者山岳会。119番で消防防災ヘリの出動を要請してください。

桑原:
JI5RCI 。こちらJI5KCC。9月15日 午前9時30分、 石鎚山北壁ダイレクトルートで遭難事故発生。負傷者は太郎30歳男1名。 登攀中に墜落し足首骨折と腕からの出血。意識はあるが歩行困難。ダイレクトルート基部にて応急手当。所属山岳会は高知勤労者山岳会。119に連絡して消防防災ヘリ出動要請の連絡了解しました。どうぞ。 

中田(事故パーティー):
JI5KCC、 こちらは JI5RCIよろしくお願いします。このまま待機します。

非常通信を受信した桑原さんは
*手持ちの携帯電話などで消防に連絡する
*山小屋に事故内容を伝え小屋から消防に連絡してもらう
*有線電話のあるアマチュア無線局と交信して消防に伝達してもらう
等の処置をとります。

可能ならば桑原さんには引き続きヘリの誘導などで消防本部と遭難パーティを中継をしてもらいます。

全ての非常通信が終わったら

中田(事故パーティー):
非常通信を以上で終了します。ご協力ありがとうございました。こちらはJI5RCIでした。(後日のお礼のためにも協力してくれた人のコールサインを控え、連絡先を必ず聞いておく)。

後日、非常通信を行った届けを総務省に提出し、協力してくれた人にお礼をします。          

                                             (おわり・文責中田)

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